武道の達人が、何気なく見せる優しい表情が素敵だと思う。
藤井喜代子さんは、江戸時代から続く「杖(じょう)道」と「居合道」に打ち込む、熱意と礼節の人だ。居合道との出会いは、ひょんなことから。「小学生だった娘を剣道の稽古に通わせていたとき、私の方が居合道に興味を持ってしまって」と笑う。無双直伝英信流の門をたたき、現在は『鴨刀会』に所属する。2001(平成13)年には、教士七段となり、“静と動の形”の中に、生きがいのようなものを感じるようになった。
居合道入門から20年ほど経っていたある時、「範士8段の加藤勝幸先生から、京都に『杖道』の会がないので、立ち上げたらいかがでしょう、と勧められました。それなら……」と、小舟一隻で乗り出す覚悟を決めて「隻杖(せきじょう)会」を自ら始めた。神道夢想流の修行に打ち込み、四半世紀近い。2021(令和3)年8月には錬士七段に昇段した。
杖道は、長さ128センチの樫の棒を巧みに使い、相手より先に攻撃するのではなく、攻めてくる相手を“制圧”するのが神髄とされる。そのためには、研ぎ澄まされた心技を身につけることが厳しく求められるだろう。
隻杖会の会員は現在約35人だが、これまでに高段者が次々に誕生、全国の大会でも、藤井七段の名前は知られている。
居合道、杖道とも、稽古は原則毎週1回、京都市の左京東部いきいき市民活動センターで行っており、80歳の藤井さんの袴姿がりりしい。「技の習得だけでなく、礼節、会員同士の和、一人一人の人間形成を目指しています」ニコニコ顔でさらりと教えてくれた。

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井上 年央(いのうえ としお)
スポーツライター
元京都新聞社運動部長