講師:千葉 真子 氏
マラソンランナー・スポーツコメンテーター・アトランタオリンピック日本代表 世界陸上10000m/マラソン 銅メダリスト・京都マラソン2026応援大使
マラソンは「準備のスポーツ」
長年トップランナーとして第一線で活躍してきた千葉真子氏を講師に迎え、マラソン講座が開催された。
講座のテーマは、完走に向けて走りの技術以前に重要となる「準備」だった。
まず、千葉氏が強調したのは、マラソンは当日の気合や根性で何とかなる競技ではない、というメッセージだった。走りの出来は、スタートラインに立つまでの準備によって大きく左右される。レース当日には、すでに結果の大半が決まっているという考え方だ。
大会10日前までに、少なくともハーフマラソン(21km)を2~3回走っておくことが望ましいとされた。これは単なる目安ではない。ゴールまで体力を維持するには、長距離への身体的な慣れ、疲労の出方、ペース感覚を事前に把握しておくことが、大切だ。

前日と当日の準備が、レースの流れを決める
レース直前の過ごし方も、レースの流れを左右する重要な要素となる。
前日は炭水化物を多めに摂取し、身体に十分なエネルギーを蓄えておくことが基本だ。
そして、レース当日の準備で千葉氏が特に強調したのが、スタート前にトイレを済ませておくことだった。走りそのもの以外の不安を減らすことが、ウォーミングアップ以上に重要だといい、落ち着いたスタートにつながると指摘した。
こうした準備を重ねることで、スタートラインに立つ時点ですでにレースは始まっていると、千葉氏は語った。

重心を前に運ぶ感覚が、走りを支える
安定して長く走るためのフォームについて千葉氏が重視したのは、「形」ではなく、走りの中で重心をどう前へ運ぶかという考え方。
前に出した足の真上に、身体が自然に乗る状態をつくることが重要だ。接地した足裏へ体重がスムーズに移動すれば、余計な力を使わず、安定して前へ進める。
強く地面を蹴ろうとするほど重心は後ろに残り、走りはかえって重くなる。腰を折らず、頭から背中、骨盤までを一本の軸として保ち、身体全体がわずかに前へ傾く感覚だ。
この感覚が、効率の良い走りを生む。
シューズに合わせた走り方を選ぶ
自分に合った走り方は一つの型に定まるものではない。千葉氏は、シューズの特性に合わせて走り方を選ぶことの重要性を説いた。
薄型・軽量シューズが主流だった時代には、歩幅を抑え回転数を高めるピッチ走法が適していた。一方、現在多くのランナーが使用するカーボンプレート入りの厚底シューズでは、反発力を生かしたストライド走法が向いている。重心を前に運ぶことで、シューズの反発が自然な推進力として働く。
どちらが正しいかではなく、シューズの特性に合わせて走ることが重要だと強調された。

力を抜くことが、レース後半を支える
正しいフォームを意識しすぎることで、かえって身体に力が入り過ぎてしまうこともある。
走る動作は、筋肉の「緊張」と「弛緩」を繰り返す運動だ。力を入れる場面があれば、必ず力を抜く瞬間が必要になる。力を抜くとは、だらけることではなく、必要な力だけを使い、不要な力を手放すことを意味する。
重心の流れに逆らわず、必要以上に力を入れないことで走りは安定し、後半まで走りを維持できる。

走らない時間も、走りを支える
走力は、走っている時間だけで作られるものではない。日常の身体ケアも、走りを支える重要な要素となる。
足がつりやすい人は身体が硬い傾向があり、特に腸脛靭帯はトラブルが起きやすい部位だという。筋肉をほぐしてからストレッチを行うことや、お風呂上がりなど身体が温まった状態でケアすることが効果的だ。短時間でも継続することが、安定した走りの土台になる。

歩く時間も大切なトレーニング
走っていない時間の過ごし方も、マラソンに向けた重要なトレーニングになる。千葉氏は、歩く時間も決して無駄ではなく、「歩き方次第で走りにつながる」と話した。
歩くときには、つま先と膝が正面を向くよう意識するだけで、理想的な重心移動を身体に覚えさせることができる。また、ウォーキング中に、姿勢や重心が前へ流れていく理想の走りをイメージすることも、走りの感覚づくりに繋がる。
当日の安心は、細かな備えから生まれる
スタート前は、想像以上に気持ちが落ち着かないものだ。だからこそ、入念な事前準備で走りそのもの以外の不安をできるだけ減らしておくことが重要になる。
トイレの場所や混雑状況の確認、補給食や装備の事前準備など、細かな備えがスタート時の安心感につながる。雨天時に備え、ナンバーカードが見える透明の雨がっぱを用意しておくと、風よけとしても役立つほか、途中で雨が止んだ際には処分することもできる。
「もしも」を想定した細かな準備が、落ち着いた気持ちで走り出すための大きな支えとなる。
京都マラソンに向けて
全国各地でマラソン大会が行われるこの季節、京都市では2026年2月15日に京都マラソンが開催される。
距離、フォーム、身体ケア、そして心構え。千葉氏の講座で示された数々のヒントは、日々の準備の積み重ねだった。準備を重ねることで、自信を持ってスタートラインに立つことができ、当日の走りはより安定する。

参加者の声
講座終了後には、多くの参加者から前向きな感想が寄せられた。
「体操をしながら話が聞けて、すぐに実践できた」
「一人ではできない追い込み練習ができ、良い刺激になった」
「重心やフォームを客観的に確認でき、楽に走れる感覚をつかめた」
「股関節のストレッチや身体のケアが特に参考になった」
「座学と実技のバランスが良く、充実した一日だった」
「説明が分かりやすく、走ることを続けるモチベーションにつながった」
「ファンサービスを通して、さらにランニングを続けたいと思えた」

【ファンサービスの様子】
講座終了後には、サインや記念撮影の時間も設けられた。一人ひとりに丁寧に対応する姿が印象的で、参加者にとって学びとともに心に残る時間となった。
堀 さやか(ほり さやか)
公益財団法人京都市スポーツ協会 スポーツプロモーション室
広報担当

