五輪の陸上競技で100年の歴史がある「競歩」。京都大学陸上競技部OBの山西利和選手は、2019年10月の世界陸上競技選手権(カタール)の20キロ競歩で1時間26分34秒をマーク。この種目の日本人初の金メダルを獲得し、同時に東京五輪の代表に内定。目指している「美しい競歩」への思いを語ってもらった。
「だれが見ても、美しく、速い競歩」を目標に
山西選手の取材は、コロナ禍のために東京五輪が本当に開催できるかどうか……という議論が出始めた時期だった。だが、マスク越しであっても動揺を見せない。「五輪は、マイナー競技にもスポットが当たる舞台だと思います」と、心待ちにしているのは間違いない。長岡京市出身の山西選手が、競歩と出会ったのは堀川高校陸上部時代。指導者の船越康平教諭(現京都工学院高校教頭)が扉を開いた。インターハイでは2年生で2位、3年生で優勝。2013年のこの年、世界ユース陸上(ウクライナ)10000m競歩で日本人初の金メダルに輝く。
競歩は、技術面の難しさやルール上の制約など、複雑な種目だ。山西選手は、課題を見つけ、修正する能力、集中力に優れていたという。「練習が結果に結びつくスポーツの楽しさ、勉強は答えが解る面白さ」。山西選手は京都大学工学部に進学し、陸上部で徐々に活躍を始める。4年だった2017年のユニバーシアード(台北)20キロ競歩で優勝した。就職は陸上部があり、研究・開発の仕事ができる愛知製鋼(東海市)へ。競技も仕事もプロを意識し、競歩のベテラン指導者として名高い内田隆幸さんの“競歩理論”を学ぶ。

初出場の世界選手権金メダルの時、山西選手は日本選手権の優勝経験がなかった。日本より先に世界の頂点に立ったが、2020年2月、六甲アイランドで開かれた日本選手権・20キロ競歩で初優勝。東京五輪目前の3月にはコロナ禍で延期となったが、2021年2月に開催された日本選手権(六甲アイランド)では、20キロ競歩で1時間17分20秒の大会新記録で連覇を達成し、更なる進化を続けている。
毎日の練習は「(動きの)ロスをいかに削っていくか。だれが見ても、美しく、速い競歩」が目標という。それは『練習』というより『研究』に近い。発表の場が五輪になるか……。青年アスリートには、これからも多くの舞台が巡ってくる。
選手略歴
1996年京都府生まれ。堀川高校進学後に競歩競技を始める。高校3年時には世界ユース陸上で日本人初の金メダル、高校卒業後は、京都大学工学部へ進学し、大学4年生時には夏季ユニバーシアードで金メダル。大学卒業後は愛知製鋼に入社し、2019年の世界陸上選手権で日本人初の金メダルを獲得。2021年2月に開催された日本選手権では、大会新記録を出し2連覇を達成した。

井上 年央(いのうえ としお)
スポーツライター
元京都新聞社運動部長